SSブログ

ウイルスは生きている (講談社現代新書) 中屋敷均 (著) [その他の闘争日誌]

51QHhMiPAQL.jpg

ウイルスは生きている (講談社現代新書) 中屋敷均 (著)


「敵を知り己を知れば百戦危うからず」(オリジナルは「彼を知り」だそうだ)は孫子の兵法だが、コロナウィルスで死ぬ前に相手の正体をよく知っておけば死なずに済むかも知れないし(多分ダメだろう)、ダメでも納得して死んでいけるかも知れない(ということもないと思うが)。面白いことにコロナウィルス騒動でよく売れているのか新本より古本の方がずっと高いようだ。 新書なのですぐに読み切れると思う。


ウィルスという存在は細胞を持たない。ゲノム核酸とそれを包み込むタンパク質であるキャプシドだけの構成だ。ゲノムとは遺伝子情報のすべてだが、一般の生物は単細胞、多細胞、動物植物問わず二重らせん構造のDNAにそれが記録されている。ところがウィルスは1本のDNA、2本のDNA、1本のRNA、2本のRNAなど多種多様なのである。安定性では二重らせん構造のDNAに勝るものはないようだが、不安定なゲノムを持つウィルスは突然変異を起こしやすくもある。そしてそれが大きな武器でもあるようなのだ。


序章からして面白い二つのエピソードが出てくる。有名なスペイン風邪。第一次大戦末期の1918年から1919年まで猛威を振るい、推定で少なくて2千万人、多くて5千万人の死者が出たと考えられている(アジアやアフリカのデータが不完全なので1億人死亡という推計もある)。当時はウィルスそのものが確認されていなかったので細菌病などと考えられていた。インフルエンザとわかってからずっと後、20世紀の末に永久凍土の下に眠る保存状態のよいエスキモーの人の遺体からそのウィルスが分離された。 その遺伝子はインフルエンザのA型の一種、H1N1型だった。今でも時々はやる型だが死者が出るにしても、かつてのような毒性を示すことはない。人間自体が抗体を獲得するだけでなく、実はウィルス自体の毒性も下がっていることがわかってきた。


もう一つのエピソードはオーストラリアでウサギを駆除するため使用されたウサギ粘液腫ウィルスの話。かつてこの大陸にウサギはいなかったが英国の植民地時代に狩猟を楽しむために英国人により20数匹のウサギが放たれた。しかしこれといった天敵がいなかったためにやがて6億羽にもなり作物にも大被害を与えるようになった。 このウサギを駆除するため1950年代にウサギ粘液腫ウィルスがまかれた。致死率は実験室のような環境で99.8%、野外でも90%以上という怖ろしい「生物兵器」だった。ウィルスのためにウサギは年々減り続けていった。だが2年後で80%、6年後には20%と致死率は減少。もちろんこれもウサギ側で抗体を獲得していったためでもあるが、ウィルスを調べて見るとウィルス自体の致死性も50%前後に低下していったとわかったというのだ。H1N1と同じなのである。


他に胎盤と言うものの不思議な機能にウィルスの能力が関わっていると言う話や、狩人バチの仲間には相手のイモムシに卵を産んだ際に、ハチの体内のウィルスも植え付け、相手の免疫機能を発動させないようにしている話とか面白い話がたくさんある。生命の進化過程に実はウィルスは深く関わっているというのが著者の結論だ。 これを


読めばあなたもウィルスを愛せるようになるだろう・・いや、ならないか。ともかくお勧めする。

nice!(0)  コメント(0) 
共通テーマ:日記・雑感

nice! 0

コメント 0

コメントを書く

お名前:[必須]
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

Facebook コメント