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オルタナティブレポートを国連規約人権委員会に提出 [反戦ビラ闘争日誌]

久々に再開します。親父の骨、納骨終了。いつまでも「喪に服して」いられません。救援会解散までは本ブログを続けていきます。

今年の10月にジュネーブで国連規約人権委員会により、日本の人権の状態を全面的に審査する会議が開かれます。救援会では政府報告書に対して、救援会独自のレポートを9月に提出しました。日本語版と英語版を掲載します。まず日本語版。(BORA)

 

(表紙)市民的及び政治的権利に関する国際規約に基づき提出された第5回日本政府報告書に対する立川・反戦ビラ弾圧救援会報告書     

2008年8月 立川・反戦ビラ弾圧救援会   

(本文)

 

(1) 結論と提言

 日本政府は、政治的表現行為として行われるビラ配布に対する規約19条に違反する捜査と起訴をやめるよう警察署等の関係機関を厳しく監督・指導すべきであり、本件の逮捕・起訴を追認した規約違反の内容の判決が最高裁判所で言い渡されたことに鑑みて、警察官、検察官および裁判官に対する人権研修を行うべきである。

 

(2) 規約委員会の「一般的意見」と「最終見解」

「一般的意見10」(1983729日採択)は、第3項において、締約国の「表現の自由の正確な制度」を知るためには、憲法又は法律の文言だけではなく、「表現の自由の範囲を明確化する規約、又は、一定の制限を定める規則及び実際上本権利の行使に影響を与えるその他の何らかの条件を定める規則のいずれかについての関連情報を必要とする」としている。本件の逮捕・起訴および最高裁判決は、本項にいう「関連情報」であり、表現の自由の範囲を不当に狭めるものである。さらに、第4項は、「締約国が表現の自由の行使に対し一定の制限を課する場合、その制限は、権利それ自身を否定するような状況に陥らすことは出来ない」としているが、本件の逮捕・起訴および最高裁判決は、表現の内容―それも国家の特定の政策についての一方の見解だけ―を規制するものあり、日本における表現の自由の「権利それ自身を否定するような状況に陥らす」危険があるものである。

 規約委員会の「第3回政府報告書審査 最終見解」(1993114日)は、「当委員会は、表現の自由の権利の尊重に関して、法律や判決の中には制限的なアプローチをしているものがあることを残念に思う」と述べている。本件についての最高裁判決は、この「最終見解」を尊重していない。また自由権規約委員会の「第4回政府報告書審査 最終見解」(19981119日)は、「委員会は、裁判官、検察官及び行政官に対し、規約上の人権についての教育が何ら用意されていないことに懸念を有する。委員会は、かかる教育が得られるようにすることを強く勧告する。裁判官を規約の規定に習熟させるための司法上の研究会及びセミナーが開催されるべきである」と述べている。本件についての最高裁判決は、「裁判官を規約の規定に習熟させるための司法上の研究会及びセミナーが開催」等の必要性を強く認識させるものである。

 

(3) 第5回政府報告書について

 「国際人権(自由権)規約に基づき提出された第5回日本政府報告書に対する日本弁護士連合会報告」が指摘している通り、本件の逮捕(2004227日)以後に提出された第5回政府報告書では、本件その他ビラ配布が規制された事件や判決についての記述が全くない。

 

(4)私たちの意見

1 私たち「立川・反戦ビラ弾圧救援会」は、本件の元被告人3人に対する表現の自由を保障した日本国憲法211項および規約19条に違反する表現の自由規制に対して、裁判所で無罪判決を得ることを目的として活動してきたボランティア団体である。

 

2 元被告人3人(以下、3人)は、東京都立川市内に事務所を置く市民団体「立川自衛隊監視テント村」のメンバーである。同団体は、立川市で30余年にわたり反戦活動を継続してきた小さな市民グループである。

 

3 3人は、2004年2月27日に、住居侵入(刑法130条前段)の容疑で令状逮捕され、同年3月19日に東京地方検察局八王子支部によって起訴された。容疑は、同年1月17日午前に、同市内の防衛庁官舎(以下、本件官舎)の各戸玄関新聞受けに、自衛隊のイラク派遣に反対する内容のビラを、昼間に、30分程度の時間をかけて、配布したことが、住居侵入罪に該当するというものである。同ビラは、「自衛隊のイラク派兵反対!一緒に考え、反対の声を上げよう」と題するものであった。なお被告人らは同年2月22日の同様のビラ配布についても、同年3月31日に追起訴された。

 

4 日本では、政治的あるいは商業的ビラ配布、新聞の定期購読の勧誘、宗教団体の布教活動等の目的で集合住宅に立ち入ることは日常的に行われており、本件の最高裁判決以後も、日常的に行われている。

 

5 3人がビラを配布するために立ち入った本件官舎は自衛隊が管理しているが、その態様は民間の集合住宅と特に異なるところはない。事件当時は、8棟の建物があり、その敷地の周辺にはフェンスが立てられていたが、随所に開口部があり、門扉はなかった。また市議会議員の活動報告や商業的ビラの配布あるいは宗教団体の布教活動のために本件官舎に立ち入りは自由になされていたし、本件以前にそれがトラブルになったことはない。

 本件で3人に適用された刑法130条前段の住居侵入罪は、私生活の平穏を保護するための立法であり、政治的表現を抑制するためのものではなく、本件以前に平穏な政治的表現活動に適用されたことはなかった。3人への住居侵入罪の適用は、国家が法律を極めて恣意的に適用して、3人の表現活動を抑圧したものである。

 

6 本件への住居侵入罪の極めて恣意的な適用の結果、日本全国で、自衛官やその家族に自衛隊のイラク派遣反対を訴えるビラの配布ができなくなった。イラク派遣に反対する市民たちは、本件の逮捕、起訴に萎縮し、本件以前には合法であった表現活動を控えざるを得なくなったのだ。例えば、愛知県名古屋市の市民グループ「有事法制反対ピースアクション」は、航空自衛隊小牧基地周辺の防衛庁官舎でのイラク派遣反対のビラ配布をやめている。同グループの事務局長は、「事件前は隊員の奥さんたちに手渡ししていたほど牧歌的だったのに」と事件の影響を語っている(2005年12月9日付、朝日新聞)。また例えば、大分県湯布市の市民は、最高裁判所に提出された「上申書」に、本件以後、イラク派遣の問題だけではなく、様々な地域の問題について、「自衛隊官舎へのビラ入れがためらわれるようになり、実質的には自衛官やその家族と、問題を共有し、ともに解決を考えるということがほとんど困難になってしまいました」と書いている。

 このように、本件の逮捕と起訴は、日本全国の市民の表現活動を極めて強力に萎縮させた。最高裁判決以後もこの状況は基本的に変わっていないものと思われる。それどころか、判決以降は、野党の市議会議員が、郵便受けに市議会報告を配布するために、民間のマンションに立ち入ったことを違法な住居侵入だと考え、警察に通報する市民まで現れているのだ(第14パラグラフ参照)。

 

7 3人がビラ配布をしたとき、本件官舎の出入り口付近に「ビラ貼り・配り等の宣伝活動」等を禁止する旨の管理者名の「禁止事項表示板」が設置されていた。しかし、当時も3人の逮捕・起訴後も、本件官舎では、商業的ビラの配布や宗教団体の布教活動目的での立ち入りが行われているが、問題とはされていない。3人を有罪とした東京高等裁判所さえ、3人の配布したビラの内容を問題視した本件官舎の管理権者が、3人のビラ配布だけを取り締まる目的で「禁止事項掲示板」を設置したことを認めているのだ。すなわち高裁判決は、本件官舎の管理権者が、「各居住者に対し、自衛隊のイラク復興支援に関して反自衛隊的内容のビラを投入又は配布している者を見かけた場合は直ちに110番通報するとともに東立川駐屯地、立川分屯基地に連絡するように求める内容の依頼文書を配布した」(強調は「救援会」)ことを認めているのだ。

 

8 本件が、法律の極めて恣意的な適用により3人の表現活動を国家が規制しようとした事件であることは、逮捕後の長期の身柄の拘束からも明らかだ。3人の身柄の拘束は、75日間に及び、国際的な人権NGOであるアムネスティ・インターナショナルは、3人を日本初の「良心の囚人」と認定したのだ。

 

9 2004年12月16日の東京地方裁判所八王子支部判決は、表現の自由を尊重する立場から3人に無罪判決を言い渡した。しかし2005129日の東京高等裁判所判決は、3人に罰金20万円ないし10万円の有罪判決を言い渡した。ところで、この高裁判決は、本件官舎の管理権者が、ビラ配布のための立入り一般を規制しようとしたのではなく、3人が所属する「テント村」の自衛隊のイラク派遣に反対する内容のビラ配布だけを規制する目的で官舎敷地の出入り口付近等に「禁止事項表示板」を設置したことなどの事実を認めている(第7パラグラフ参照)。

 

10 2008411日の最高裁判決(第2小法廷)は、表現の自由の行使が問題となっている本件で、規約19条に一言も触れないで、東京高裁の有罪判決を支持した。最高裁は、「表現の自由は、民主主義社会において特に重要な権利」であるとし、3人のビラ配布を表現活動であると評価した。ところが、表現の自由の行使の手段が「他人の権利を不当に侵害するようなものを許されない」とした上で、本件で問題になっているのは、「表現そのもの」(=表現の内容)ではなく「表現の手段」だとした。

 

11 しかし、最高裁は、なぜ本件で問題となっているのは「表現の手段」だと言えるのかを一切説明しなかった。原判決が、管理権者らの目的が「テント村」の自衛隊のイラク派遣に反対する内容のビラのみを規制することにあったという事実を認めているにも関わらずである。最高裁判決は、この事実については、不当にも、一切言及しなかった。

 

12 また最高裁は、3人のビラ配布が誰の権利をどのようにどの程度不当に侵害したのかについて、ほとんど何も説明しなかった。最高裁は、「管理権者の管理権を侵害」したから、本件官舎に住む住人の「私生活の平穏を侵害」したと簡単に述べただけである。管理権者の意思を侵害するとなぜ住人の「私生活の平穏」が侵害されるのかについての説明すらない。最高裁は、3人のビラ配布が、「他人の権利を不当に侵害」(傍点は「救援会」)したかどうか以前に、「他人の権利を侵害」したかどうかさえ十分に説明していないのだ。

 

13 さらに最高裁判決には、自衛隊、警察官、検察官が、「テント村」の活動を敵視し、その主張を記したビラを配布するのを規制しようとしていたことを示す以下の3点の資料について検討した形跡がない。3点とも、弁護団によって裁判所に提出されたものである。

a 陸上自衛隊情報保全隊の内部文書1

 これは、本件の背景となる以下の事実を示す文書であり、日本共産党が公開したものである。それによれば、本件が発生する以前の200311月以降、陸上自衛隊情報保全隊は、自衛隊のイラク派遣に反対する全国の市民の様々な表現活動を組織的かつ継続的に監視していた。本件で有罪が確定した3人が所属する「テント村」も監視対象になっていた。公開された内部文書には、自衛隊が「テント村」の合法的な宣伝活動を継続的に監視していたことを示す4箇所の記述があるのだ。

b 陸上自衛隊情報保全隊の内部文書2

 これは、aとは別の内部文書であり、日本共産党の機関紙「しんぶん赤旗」が報道したものである(同紙、2007年10月12日および14日)。同文書には、2003年12月17日に立川警察署から自衛隊側に、ビラを「配布・投入している者を見たら110番」「自衛隊からビラを配布・投入され困っているという形で被害届け」などの協力依頼があったことなどが書かれている。また同文書には、「我々としてはテントの構成員に2~3日くさい飯を食ってもらいたいんですがね。そうすれば、テント村も多少変わってくると思うんです」という「捜査員の談」も書かれている。同文書は、本件が、立川警察署が主導して3人の表現活動を抑圧しようとしたことを示すものである。

c 東京新聞の記事

 これは、検察官が、3人に配布したビラが「反戦」を内容とするものであった点を重視して本件の起訴を行ったことを示す資料である。東京新聞は、本件の起訴にあたって検察官が異例の記者会見をしたことを報道し、その報道の中で検察が、「反戦ビラが自衛隊関係者である住民に精神的脅威を与えた点にも言及」(東京新聞2004320日付〔多摩版、武蔵野版〕)したとしている。

 以上、3点の資料及び東京高裁が認めた事実を考えれば、3人は、刑法に違反して「他人の権利を不当に害」したから逮捕・起訴されたのではなく、規約19条に違反して、3人が配布したビラに記された自衛隊のイラク派遣に反対するというメッセージを抑圧しようとして、国家権力が、3人を逮捕・起訴したことが分かる。最高裁は、これらの資料について―その信憑性も含めて―、一切検討せずに、3人に対する有罪判決を支持したのだ。

 

14 最高裁判決以後、不人気な政治的メッセージを各戸のポストに届ける行為を犯罪とみなす傾向が日本社会では強まった。例えば判決後の200869日に、立川市に隣接する東京都国分寺市内のマンションのオートロックの扉の外にある集合ポストに日本共産党の国分寺市議団発行の「市議会報告」を配布していた同党所属の市議会議員が、住居侵入の容疑で書類送検されるという事件が発生した。同議員が議会報告を投函していたことを見咎めた一人の住民の要請でマンションの管理組合が被害届を警察に提出していたのだ。なお管理組合が被害届を取り下げたため、同議員は、717日に不起訴処分となった。また7月1日には、陸上自衛隊富士学校の学生宿舎に「核武装早期実現」などと記載されたパンフレットを投函していた男性が静岡県警によって逮捕されている。

 

15 本件の最高裁判決は、市民的及び政治的権利に関する国際規約19条に違反する。

a)    規約192項違反

規約19条は、「すべての者は、干渉されることなく意見を持つ権利を有す」るとし(1項)、「すべての者は、表現の自由についての権利を有する」(2項)と規定している。そして「この権利には、口頭、手書き若しくは印刷、芸術の形態又は自ら選択する他の方法により、国境とのかかわりなく、あらゆる種類の情報及び考えを求め、受け及び伝える自由を含む」(2項)と規定している。

 3人のビラ配布行為は、印刷物によって、平穏に、自衛隊のイラク派遣に反対するという自らの見解を他人に伝えるための行為であった。本件の逮捕、起訴および最高裁判決は、3人の表現の自由に対する規約19条に違反した規制であるだけではなく、本件官舎に居住する自衛官の家族も含む個々の自衛隊関係者の「あらゆる種類の情報及び考えを求め、受け」る自由をも侵害している。

b)  規約193項違反

「他の者の権利」も「国家の安全」も脅かしていない。3人のビラ配布は、日本全国で日常的に行われている政治的、商業的宣伝活動としてのビラ配布と態様はまったくことならない平穏な方法で行われたものであった。したがって、3人の行為は、「他の者の権利」を侵害するものではなく、ビラの内容も政府の政策を批判しただけであり、自衛官その他を個人的に中傷したものでは全くないから「他の者」の「信用」を傷つけるものではない(規約193(a))。また3人のビラ配布は、「国家の安全」等(規約193(b))を脅かすものでは全くない。本件の裁判でも、3人のビラ配布が、本件官舎の管理権者の管理権ないし住民の「私生活の平穏」を侵害したかどうかが争われたのみである。

 

16 本件の逮捕、起訴および最高裁判決以後、第6パラグラフおよび第14パラグラフで書いたとおり、集合住宅での平穏にビラ配布という手段での市民の政治的表現活動は広汎かつ強力に萎縮させられている。しかし、第4パラグラフで書いたとおり、商業的なビラの配布等は、現在でも自由に行われているのだ。住居侵入罪を極めて恣意的に適用した本件で3人を有罪とした最高裁判所判決は、日本の裁判所が、規約19条を十分に理解せずに、同条に反する国家権力による表現の自由に対する恣意的な規制を認めたことを意味する。したがって、「(1)結論と提言」で書いたとおり、警察官、検察官および裁判官に対する規約19条に関する人権研修が行われるべきであると私たちは考える。

 

(以上、6599字)


 


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コメント 6

Mosel

再開ありがとうございます。この事件、最高裁判決が終わりではないと思います。新たな展開を期待しております。
by Mosel (2008-09-21 22:49) 

solea01

コメントありがとうございます。ローペースでもしばらくはぼちぼちやっていきます。
by solea01 (2008-09-22 05:50) 

ままデエリス

悲しみはなかなかいえないとは思いますが
時の流れに身を任せるしか
ないときもありまする。。。

再開なさってよかったです。

じっくり読ませていただきます。
by ままデエリス (2008-09-22 09:51) 

solea01

父親の死だけではないのですが、今年はいろんなことがありすぎましてねえ。ぼちぼち読んでって見てください。
by solea01 (2008-09-22 21:34) 

shira

 ホント、どう考えても立件に値しない行為だと思うんですけど。
by shira (2008-09-23 12:29) 

solea01

コメントありがとうございます。裁判は終わってるので、いろいろなやり方で判決を批判し続けたいと思います。これはその一つです。
by solea01 (2008-09-23 17:09) 

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